Donnerstag, 10. Dezember 2020

BH 企画・ハードコア対談出演

卒論の頃から長らく私淑していた bibliotheca hermetica(通称 BH)のヒロ・ヒライさん(現コロンビア大学研究員)と、はじめて個人的に連絡をとったのは、ドイツ留学が佳境にさしかかった 2018 年 2 月上旬。翌年の春、ディフェンスを終えて日本に本帰国し、ほどなくして実際にお会いする機会を得たわけですが、その後は光栄なことにけっこう仲良くしてもらい、秘密裡かつ地下潜航的に共同研究にも着手していたりします。そんなヒライさんから、最近、私の留学生活と博論、さらに現在の研究内容や関心事について自由に語りたおすウェブ・インタビューの話を打診されました。ふたつ返事で快諾したのち、しばしの調整をへて、昨日、無事に収録を終えたのですが、その動画が速くも明日、日本時間の金曜夜 21 時から YouTube 上でプレミア公開されることになりました


記憶にあるかぎりで、言及したテーマを挙げつらってみれば、アヴィセンナ哲学からイブン=アラビー派の世界観、魔術、占星術、数秘術、イスラム神学、帝国とスーフィー教団、さらには天気予報、博物誌の伝統等、蛇状曲線を描いていたのがよくわかります。何故かトイレの話もしました(汗)。いきおい全体をとおして言葉足らずになってしまった感は否めません。そこで以下では、私が対談で触れたテーマ(最近、集中的に調査研究している内容とほぼ直結します)にかんして、すでにブログや Twitter でメモした内容を拾い集め、リスト化してみました。ご参考までに。

1) イブン=アラビー派の歴史(13-15 世紀)とオカルト諸学、そしてアヴィセンナ以後の哲学


3) 14-15 世紀のカラームにおける天体の魂と感覚をめぐる議論:
a) タフターザーニー(1389/90 年没)の議論とソース分析

4) その他

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関連リンク

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動画公開後付記

おかげさまで、プレミア公開は想定以上の成功を収めることができました。ありがとうございます。ちなみに公開開始後の一時間(対談が終了するまで)は、チャット欄をつうじて発言内容の補足や訂正を行えたのですが、残念ながらリンクの貼り付けはできなかったんですね。なので、せっかく用意しておいた関連リンク一覧も含めた、内容補足を以下に公開します。これで皆さんの関心をさらに刺激できれば、幸いです。

1) 使用した図像について
この図像はイスタンブルのスレイマニイェ図書館に収蔵されている「ジャールッラー・コレクション」の 1033 番目(Carullah 1033)の写本中に描かれている挿絵です。写本の書写年は 1382 年。動画中では聴き取りにくいという指摘があったので、もう一度ここに書いておきますと、著作自体はイブン=アラビーの主著『叡智の台座』にたいしてハイダル・アームリー(1385 年以降没)という人物が書いた注釈書です。そして申し訳ないことに対談収録後に気づいたのですが、大雑把にいうと、見開き右側の図像がマクロクスモス、左側の図像がミクロコスモスに相当するようです。前者の側には十二宮を 4 つの三つ組に分け、それぞれから四元素(火・空気・水・土)が生じる機序が描かれており(占星術でよくみられる議論)、後者の側には様々な感覚等の名前が円周上に配されていて、それらの相互作用から四性質(熱・冷・乾・湿)が生じる機序が描かれています。くわえて、いずれの図像の外側にも共通して同じ位置に「知性」や「魂」などの語が配されている点、そしてどちらも同心円構造が採用されている点(通常は宇宙の姿を描くときに使われるはず)から、ミクロコスモス=人間とマクロコスモス=宇宙の構造上・作用上の照応関係を描きだした図、とはいえそうです。ただしミクロコスモスの円の横にも「天球」や「黄道」の語が書かれているため、左の図が全てミクロコスモスだけを描いているわけでもないし、右の図が全てマクロコスモスだけを描いているわけでもない、のかもしれません。

2) ギリシア哲学と初期アラビア哲学
擬アリストテレス『神学』はプロティノスの『エンネアデス』の一部がパラフレーズされたものです。「プロクロス」とか(汗)。このあたりのテーマにかんしては、日本語でも論文が出版されています。特に以下のものは、オープンアクセスであることもあり、とても有益です。


ちなみに対談中では「擬アリストテレスの『神学』のアラビア語訳」という言い回しをしてしまっていますが(汗)、『神学』のギリシア語版がまずはじめにあって、それをアラビア語に訳したというわけではなかったはずです。正しくは(大事なことなので繰り返しますが)、あくまで「プロティノスの『エンネアデス』の一部をアラビア語でパラフレーズしたもの」が、そのものズバリ、「擬アリストテレスの『神学』」です。そして最後に、私が口走ったプロクロスの『神学綱要』と『原因論』の関係については、詳細な文献学的研究が出版されています。その部分的な読書メモは当ブログでも公開しているので、関心のある方はご参照ください。

3) イブン=アラビー派:
イブン=アラビーと彼のフォロワーたちの生涯・著作の概要を(ひとまず)調べるには、京大の KIAS が作成したデータベースが有用です。関連史資料の日本国内の所蔵状況もリスト化されており、日本在住のイブン=アラビー派研究者にとって、非常に実用的な造りになっています。ただし、データベース自体が 10 年近く前に完成したものなので、最新の研究は反映されていない点に注意が必要です。なお、対談中ではイブン=アラビーが「アヴィセンナ派」の一人であると説明されていますが、彼がアヴィセンナから実際にどの程度影響を受けているかは不明です。「影響下にある」と主張する研究もありますが、私見では、アヴィセンナ哲学が生まれる以前にアラビア世界に導入されていた初期アラビア・ネオプラトニズムの一部から、より強い影響を受けているとおもいます。

4) 11-12 世紀のイスラム神学にたいする星辰魔術の影響をファフルッディーン・ラーズィーを例に調べた最新の必読研究書:


5) ブーニー文書の受容史研究:
スーフィー魔術師ブーニー(上述)についての研究は、近年 Noah Gardiner(と、じつは彼よりも先に研究をまとめたものの、フランス語で書いているため、そこまで広く読まれていない感のある Jean-Charles Coulon)が書物史的方法論と詳細な写本研究にもとづき、急激に押し進めました。Gardiner の博論は幸いなことに、オンラインで公開されています。これは全訳されてもよいと、個人的にはおもっています。


6) スーフィー教団と神秘主義、オカルト諸学と帝国イデオロギー
これについては、正確さを期して、少し補足が必要です。まず対談中では、煩雑さを避ける目的で、「スーフィズム」と「イスラム神秘主義」を同義で用いていましたが、厳密には区別される概念です。前者は後者をその一側面として含むもので、言いかえれば、スーフィズムにはいわゆる「神秘主義」だけには還元できない側面があります。そもそも 13 世紀以後のイスラム圏ではさまざまな「タリーカ」(一般に「神秘主義教団」と訳され、スーフィズムの民衆的展開の母体と言われる)が発展し、結果、イスラム教徒は皆、必ずどれかひとつのタリーカに属しているという状況ができあがってきます。そのうちのいくつかが軍事的に成功し、オスマン朝やサファヴィー朝のような帝国と呼ぶべき政治勢力へと発展していくわけです。近年、こうした王朝で統治のイデオロギーを正当化すべく、オカルト諸学(とりわけ数秘術と土占い)が広く実践されていたという指摘が現れはじめました。対談ではこの点を切りとって紹介したのですが、このような路線の研究を精力的に推し進める一部の研究者(特に Azfar Moin と Matthew Melvin-Koushki)には、その史料の扱いの面で、実証史学側から手厳しい批判が出てきています。彼らの研究にたいする正確な評価が定まるまでには、まだしばらく時間がかかると考えたほうがよいでしょう。そして最後に、対談中では「はじめはスーフィズムと魔術ないしオカルト諸学が一対一対応の密接な関係にあった」と誤解されかねない説明をしてしまっていますが、そのような事実はありません(ただ、この点を厳密に説明ようとすると長く煩雑な話になるので、今回は割愛します)。

7) 博物誌
12 世紀のペルシア語博物誌(トゥースィー『被造物の驚異』)には、何と邦訳(全訳!)があります。紀要論文として掲載されたもので、オープンアクセスです。この記事をここまで読んでくれた人ならば、DL しない手はないでしょう。13 世紀のアラビア語博物誌(カズウィーニー『被造物の驚異』)には、19 世紀ドイツの文献学者 Ferdinand Wüstenfeld による校訂・解説本があります。二巻本の同書は einbändig の状態で、DL 可能です(S. 470 までが第一巻で、それ以降が第二巻に相当)。


カズウィーニーの博物誌は、その後のイスラム圏で広く読まれつづけ、現在に至るまで数多くの写本が残っています。なかでもドイツのミュンヘンにあるバイエルン州立図書館所蔵写本 BSB Cod.arab. 464 は 1280 年に書写された非常に古い写本であり、かつ豊富な挿絵が収録されていることでも有名です。全ページ、オンラインで公開されています!

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