Donnerstag, 29. August 2013

東長『イスラームとスーフィズム』

東長靖『イスラームとスーフィズム:神秘主義・聖者信仰・道徳』名古屋大学出版会、2013年.

著者が長年にわたり、発表してきた論考を一冊の書のかたちに編み直した最新著作です。本書は著者が 2010 年に京都大学へ提出した博士論文をもとに刊行されたもので、研究史の概観・脚注・文献目録なども備えた純然たる学術書の体裁をとっています(いや、もちろん内容も学術書ですよ)。著者はこれまで、神秘主義思想一般やイスラムにおける形而上学的神秘思想(つまり存在一性論)の分析から、イスラム思想史におけるスーフィズムの位置付けや、スーフィズム自体に関する考察枠組みの構築等へと、その研究内容をシフトさせてきました。本書はそうした著者の研究遍歴を反映した構成となっています。しかしそのなかでも、彼の主たる考察対象は一貫して、研究の立ち遅れている「中期」(13-17 世紀)のスンナ派スーフィズムの実態でありつづけました(一部、現代スーフィズムに関する研究も含まれる)。その意味で本書は、この研究の少ない中期という時代のスーフィズムに対して、さまざまな角度から光をあてた労作だと言えます。

細かい目次は名古屋大学出版会のウェブサイト上で確認することができます。私自身はかなりの部分、すでに論文のかたちで読んでしまっているので、目次を見たかぎりでは、目新しさはあまり感じませんでしたが、そのどれもが(管見のかぎりでは)いまだ後発研究によって塗り替えられてはいないため、これはむしろ著者の既発研究群の先鋭性を物語るものと捉えるべきでしょう。なお、私はまだ第 1 章「スーフィズム研究の歴史と潮流」にしか目を通せていませんが、この章はスーフィズム研究史を概観した章であるため、名前とタイトルしか知らなかった研究の内容を大まかに確認することができ、私個人にとってはきわめて有益な一章でした。ただ、欲を言えば、この研究史の概観、2000 年までに発表された研究しか対象となっていないため、博論提出時の 2010 年までの 10 年間分の研究の進展も反映させてほしかったというのはあります。しかし、ともあれ、最新の本格的なスーフィズム史研究が日本語で出版されたよろこびを、まずはかみしめましょう。

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