何とか一章(pp. 1-17; ... orz)を読了することができました。
我ながら亀のごときスピードです…。
さて、前にも書きましたが、問題となるのはコーランにおけるワイード(wa'id)章句とワアド(wa'd)章句(簡単に言えば、前者は神による罰の約束が見られる章句で、後者は報償の約束が見られる章句)です。例えば以下のような命題を考えます:
「信仰者は楽園を約束される(が、信仰者でなければ火獄での業罰が待っている)」
より具体的に言えば、ここで問題となるのは、このような命題の 1. 量の問題、及び 2. 様相の問題です。果たしてこの命題は、「あらゆる信仰者は楽園を約束される」という意味であるのか、それとも「或る信仰者は楽園を約束される」という意味であるのか(1)、「信仰者は必然的に楽園を約束される」という意味であるのか、それとも「信仰者は可能的に楽園を約束される」という意味であるのか(2)。
このような命題の量化・様相化の問題は、もともとは純粋に論理的な起源をもつものではない、とシェックは言います(p. 6)。彼女によれば、この命題をどのように解釈するかは、その解釈者の信仰論によって左右されます。具体的に言えば、神はその公正さ('adl)によって罪を犯した者に対して必ず罰を与えるのか、それともその恩寵(fadl)によって恩赦を与えることもあるのか。一般的に言って、前者がムウタズィラ派の見解で、後者がムルジア派 / ハナフィー派の見解だそうです。
つまり神の公正や恩寵の関係についてどう考えるか。こういった信仰論における教義上の立場の違いが、上記の命題の解釈をめぐる見解の相違へとつながるのだ、とのこと。
なるほど。
そしてこのような議論は、アラビア語文法学と論理学への取り組みと、両者の間の混淆(Vermischung)をももたらしたのだそう(その具体的側面については論じられていませんが、このあと徐々に論じられていくのでしょうか)。これを以って、神の公正と恩寵との関係は神学(kalam)、コーラン解釈学(tafsir / ta'wil)、法学(fiqh)といった諸領域で解釈学的営みを行う為に古代末期の論理学を受容していく、その出発点・核心ともなったようです(p. 14)。神学者、コーラン解釈者、法学者が「自らの解釈学的営みの為に古代末期の論理学を受容していく」などということが(12世紀から13世紀以降についてならまだしも、8世紀末から9世紀くらいの時代に)本当にあったのか、と思わず聞きたくなりますが、その受容は、彼女によれば、彼らが無自覚的に行っていたようなものなんだそうです(p. 16)。古代末期における様々な議論、並びに論証の諸形式が、kalam の初期段階、或いはkalam よりも古くからあるムスリムの教義的文脈へと翻案され、なおかつギリシア語・シリア語の術語が(その時点で既にイスラームの教義と文法学の影響を受けていた)アラビア語の術語へと翻訳されたのだから、kalam の方法論がもつ対話 / 弁証法的構造は、神学者たち(mutakallimun)が古代末期の「口頭での議論」(mündliche Diskurse)の伝統を、彼らに固有の取り組み方と問題意識の中で摂取したものだ、と言えるだろう、と(p. 15)。
まぁ、なるほど。
ということで、本書第二章以降で試みられるのは、アラビア語を話し、アラビア語で書いたムスリム神学者・論理学者たちの諸教説を、「イスラームの教義」/「発話表現」/「論理学」という三つの観点から体系的に説明し、コーラン解釈学と文法学、論理学の交錯、及び相互感化(gegenseitige Beeinflussungen)について浮き彫りにする作業なのだそうです。そしてその中心的な位置を占めるのが、命題(或いは「判断」と「前提」)の量化と様相化の問題である(らしい)ので、本書の副題でもある「アラビア語とアリストテレス哲学における判断論・帰結論・推論論の関係」をめぐる問いの出発点としては、まずファーラービー、イブン=スィーナー、イブン=ルシュドによって受け継がれていくことになる、「命題の様相化」に関する古代末期の議論についての分析が行われなければならない(p. 17)、ということだそうです。
このような観点から、続く第二章(pp. 18-30)は「テオフラストスとアフロディシアスのアレクサンドロスにおける絶対的〔或いは非限定的〕判断、必然的判断、可能的判断」となります。
何だかすごいなぁ…。
最後に感想を。
1. 歴史的文脈を完全に度外視した議論とまでは言い切れないが、やはりテーマ自体が直接的な影響関係を実証できるようなものではないので、残念といえば残念。
2. ドイツ語自体はかなり平易ではあるものの、どうも論理の流れが一直線ではない気がする。
メモ1:
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