Samstag, 6. April 2019

ギュンター・ピーロウ(編)『信仰と学知のはざまにおけるイスラムの魔術』

Günther, S./D. Pielow (Hg. [2019]): Die Geheimnisse der oberen und der unteren WeltMagie im Islam zwischen Glaube und Wissenschaft. Leiden: Brill.

近年、英語圏を中心に活況を呈しているイスラム圏の魔術研究。そのひとつの集大成とも言える研究が出版されました。ドイツ語で(Brill  / Google Books)。600 頁を超えるヴォリュームに、これでもかと詰め込まれた先行研究レヴュー、そしていくつもの超重要テーマに焦点を当てた魔術史の各論。ドイツ東洋学の意地を垣間見せてくれる、この最新のガイドブックは、イスラム圏の魔術史に関心をもつ全人類にとってのマストアイテムといっても過言ではないでしょう。以下、目次部分の翻訳です(序論以外は未読なので、不正確な翻訳が混じっている可能性があります;あとで気が向いたら、既読の序論部の内容まとめを、補遺として加筆します)。

はじめに XV (Johann Christoph Bürgel)
謝辞 XXX (Sebastian Günther / Dorothee Pielow)
頻用されるレファレンス本と雑誌の略号表 XXXIII
挿絵一覧 XXXV
著者紹介 XXXVII
転写について XVI

序論


1. イスラムにおける魔術:対象、歴史、言説 3 (Sebastian Günther / Dorothee Pielow)

 1. イスラムの魔術研究の現状 9
  1.1. 魔術一般に関する研究とその概観 11
  1.2. 個別テーマに関する研究 13
   1.2.1. アミュレットとタリスマ 13
   1.2.2. 共感魔術(Sympathetische Magie)15
   1.2.3. sīmiyāʾ を含む魔術の使用に係る神名 16
   1.2.4. 魔法陣、数秘術的魔術、文字神秘主義的魔術、魔術的記号 18
   1.2.5. 天使文字(Brillenbuchstaben) 19
   1.2.6. 魔術的シャーレ 21
   1.2.7. 奇術と幻想 24
   1.2.8. 神懸かり、予言術
   1.2.9. 占星魔術 25
   1.2.10. ジン信仰
   1.2.11. 邪視 29
   1.2.12.「魔術書」を含む、魔術的内容を有する書物 29
  1.3. アラビア語による魔術研究 32
 2. 欧語研究の学説史における魔術理論 34
 3. 魔術に係る諸概念と概念化の可能性 38
  3.1.「魔術」(Magie)と「魔法」(Zauberei)のちがいについて
  3.2. 魔術と、アラビア語の用語法におけるその下位区分 39
 4. ムスリム学者の魔術理解 43
  4.1. 前近代のムスリム学者による魔術論 43
   4.1.1. ジャービル・イブン=ハイヤーン(117/815 年頃没)44
   4.1.2. ブハーリー(256/870 年頃没)47
   4.1.3. イブン=ワフシーヤ(4/10 世紀初頭)49
   4.1.4. バスラの純正同胞団(4/10 世紀頃)54
   4.1.5. イブン=ファリーグーン(4/10 世紀中葉)59
   4.1.6. イブン=ナディーム(385/995 或いは 377/997-98 年没)60
   4.1.7.  ガザーリー(505/1111 年没)63
   4.1.8. クトゥブッディーン・シーラーズィー(710/1311 年頃没)67
   4.1.9. イブン=アフカーニー(749/1348-49 年没)68
   4.1.10. イブン=ハルドゥーン(808/1406 年没)71
   4.1.11. ザカリヤー・アンサーリー(926/1520 年頃没)73
   4.1.12. タシュケプリュザーデ(968/1657 年没)77
   4.1.13. ハーッジー・ハリーファ(1067/1657 年没)77
  4.2.「魔法書」を含む、魔術文献の著者 77
   4.2.1. アブルカースィーム・クルトゥビー(353/964 年没)とアブルカースィム・マジュリーティー(397/1007 年没)80
   4.2.2. ファフルッディーン・ラーズィー(607/1007 年没)83
   4.2.3. ブーニー(622/1225 年没)85
   4.2.4. トゥーヒー(20 世紀)90
 5. 本書収録論文で扱う問題とテーマ 95

第 1 部 諸学の正典に見られる魔術:概念化の可能性と意味


2. カーディー・アブドゥル・ジャッバールの魔術論 119 (Maher Jarrar)

 1. 魔術と信仰(Religion)120
   1.1. 奇蹟(muʿğiz)121
   1.2. 魔術(ṣiḥr)124
 2. 補遺 128

3. アラビア語・イスラム圏の神学・法学の学問伝統内に見る魔術 135 (Mahmoud Haggag)

 1. 魔術概念とさまざまな文学ジャンルに反映されるその解釈 136
  1.1. イブン=クタイバ(276/889 年没)136
  1.2. ミスカワイヒ(421/1030 年没)136
  1.3. イブン=マンズール(711/1312 年没)139
  1.4. イブン=ハルドゥーン(808/1406 年没)139
 2. 現代の神学・法学伝統に見る魔術 147
  2.1. エジプトの宗教庁(?: Ministeriums für religiöse Stiftungen)編纂による百科事典 147
  2.2. クウェイトのイスラム法百科事典 148
  2.3. カラダーウィー(1926 年生)150
 3. 結論 152

4. イスラムにおける魔術と因果律 155 (Hans Daiber)

 1. 盗人の宣誓に関する 2 つのイエメン文書 155
 2.「結び目」(Knoten)と「泡」(?: Blasen)のもつ魔術的働き:ギリシアとのパラレル 162
 3. 魔術と新プラトン主義的「共感」(Sympathie)164
 4. 或る魔術哲学(Philosophie der Magie):キンディー De radiis (『光線について』)167
 5. 補遺:盗人の宣誓に関するさらなる 3 つのイエメン文書 169

5. ガレノス医学と預言者の医学のはざまにおける魔術 178 (Lutz Richter-Bernburg)

 1. イブン=ヒンドゥー(420/1029 年没)179
 2. イブン=ハルドゥーン(808/1406 年没)181
 3. イブン=カイイム・ジャウズィーヤ(751/1350 年没)183
 4. 結論 189

第 2 部 アラビア魔術文書の伝承経路(Traditionslinien)


6. 初期イスラムの魔術に関する史料:問いとアプローチ 195 (Ursula Bsees)

 1. アラビア語・イスラム魔術関連史料の研究状況 195
 2. テクスト周辺で成立しうる問い 196
  2.1. テクストの考古学的文脈と発見時の状況(?: Fundsituation)197
  2.2. マテリアルとレイアウト 202
  2.3.「生活の座」(Sitz im Leben)207
 3. 実践に見る魔術:P.Vind.inv.A.P.10002 213

7. アラビア語魔術文書:類型、ヴィジュアル的形成、そして伝承経路 223 (Johannes Thomann)

 1. 情報
 2. コーランの章句から作られたアミュレット 225
 3. 天使文字 227
 4. 生物を表す記号(Zeichnungen von Lebewesen)229
 5. 螺旋文字(Spiralschrift)230
 6. 魔法陣 231
 7. 木版印刷(Blockdrucke)233
 8. ホロスコープの図表 233
 9. 土占いの図形(?: Geomantische Figuren)235

第 3 部 アミュレット、占星術、そして魔術的定型句


8. アミュレット・ロールを脱魔術化する:類型論的分類(typologischen Gliederung)への示唆 247 (Tobias Nünlist)

 1. アラビア語版に見られる類型 252
 2. ペルシア語版に見られる類型 261
 3. オスマン・トルコ語版に見られる類型 277
 4. 結語 287

9. 狩りの成功に関する占星術の予言:イブン=クシュティムル(Ibn Quštimur)の K. al-Qānūn al-wāḍiḥ(『明白な正典の書』)のカタルキック・セクション 294 (Fabian Käs)

 1. 著者について 294
 2. 著作について 297
 3. 写本について 298
 4. テクストと翻訳 299
 5. 鷹狩り文献への参照 305
 6. カタルキック文献への参照 308

10. 閉ざされた扉の向こうでだけ?風紀監督職(Das Amt des muḥtaṣib)と、占星術、予言、魔法、アミュレット使用の公衆性(Öffentlichkeit)319 (Christian Mauder)

 1. 風紀監督職:歴史、機能、そして公衆的性格(öffentlicher Charakter)322
 2. 風紀監督官に関する文献に見られる予言、占星術、魔法、そしてアミュレット使用 325
 3. 勧善禁悪(ḥisba)をめぐる理論文献に見られる占星術、および関連する諸実践 325
 4. 風紀監督官の見解を記した公文書に見られる占星術、および関連する諸実践 327
 5. 勧善禁悪ハンドブックに見られる予言、魔法、占星術、そしてアミュレット使用 330
 6. 結論 337

第 4 部 文字、神名、そして神秘魔術(Magie der Mystik)


11. 「あぁ、よかった、誰も知らなくて…」:イスラム魔術における隠された神名の意味 347 (Dorothee Pielow)

 1. 神名の形而上学的意味 348
 2. sīmiyāʾ の学と神名の意味 357
 3. まとめと展望 366

12. 精霊と惑星への誓い:ムハンマド・ガウス・グワーリヤーリー(Muḥammad Ġauṯ Gwāliyārī)の al-Ğawāhir al-ḫams(『5 つの実体』) 372 (Eva Orthmann)

 1. シャッターリーヤ(šaṭṭāriyya)373
 2. ムハンマド・ガウス・グワーリヤーリーとシャイフ・プール(Šayḫ Phūl)374
 3. Al-Ğawāhir al-ḫams 375
 4. Daʿwat al-asmāʾ al-ʿiẓām(『偉大な諸神名の唱名』)377
 5. 基礎(Grundlagen)380
 6. 外的枠組みをなす諸条件 384
 7. 唱名のさまざまな方法 386
 8. 呼びかけ 388
 9. 神名の性質 391
 10. 惑星への誓い 393
 11. 他の史料に見る惑星と神名への誓い 394
 12. 結論

第 5 部 アラビア・イスラム文学に見る魔術


13. 『千夜一夜物語』の逸話に見る魔術 403 (Ulrich Marzolph)

 1. アントワーヌ・ガランと『千夜一夜物語』 403
 2. 『千夜一夜物語』における魔術的なものの諸相 404
 3. 『千夜一夜物語』中のもっともポピュラーな諸節に見る魔術 406
 4. 後代に編まれたいくつかの版に見る魔術 414
 5. 語りのテクニックというレベルでの諸相 418
 6. 結論 419

14. アラビア文学に見る魔術と恋に落ちたジッダの精霊 423 (Susanne Enderwitz)

 1. 魔術と神秘主義 426
 2. 魔術と文学 435
 3. 魔術とサイエンス・フィクション 441
 4. 結論:幻想の言葉 451

第 6 部 シンクレティズムと投影という文脈から見たイスラム魔術


15. クルド魔術:ヤズィード派の魔術シャーレ 461 (Khanna Omarkhali / Anke Joisten-Pruschke)

 1. 魔法のシャーレの「前史」 461
 2. ヤズィード派における魔術シャーレ 465
  2.1. ヤズィード派 465
  2.2. ヤズィード派の魔術シャーレ 466
  2.3. 形成と文字化 468
  2.4. 使用
 3. 結論

16. 不安のエコノミー:北アフリカと西アフリカの魔術の比較 476 (Johanna Schott)

 1. 定義 478
  1.1. 魔術 478
  1.2. 魔法 479
  1.3. エコノミー 479
 2. 理論的背景 480
  2.1. 不安と魔術 480
  2.2. エコノミーと魔術 483
  2.3. 信頼とエコノミー 483
   2.3.1. モデル A: 注意・均衡モデル(?: Vorsichts-Gleichgewichtsmodell)484
   2.3.2. モデル B: ローカルな不安のシステム 485
   2.3.3. 不安のエコノミーに対する理論的アプローチ 487
 3. 北アフリカの魔術 487
 4. 西アフリカの魔術 495
 5. 北アフリカと西アフリカの魔術の比較 503
 6. 結論

結びの考察


17. イスラムにおける魔術


言説史的展望 515 (Bernd-Christian Otto)


補遺〔1〕:文献目録:アラビア語史料と研究文献に見る魔術 547 (Sebastian Günther / Dorothee Pielow)

 1. イスラムにおける魔術に関する研究 547
 2. 欧語研究の学説史における魔術理論 581
 3. 魔術に係る諸概念と概念化の可能性 583
 4. ムスリム学者の魔術理解 584
 5. 魔術一般:レファレンス文献と中心的諸研究 586

補遺〔2〕:術語集:魔術テクストで頻用される概念:アラビア語・ドイツ語 592 (Sebastian Günther / Dorothee Pielow)


インデクス


人名 611

地名 619
書名 621
聖典 628
ハディース 631
その他のモノ 632

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[後日付記]
メルヴィン=クーシュキーによる本書への書評が出ました。超辛辣で笑えます。概要はひとまずここから。必読!

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