Sonntag, 28. November 2010

日本オリエント学会第52回大会発表要旨

雑誌『オリエント』の今年度第2号と、学会HPに掲載するための要旨を、編集委員会宛てに送りだしました。こんなかんじです(Macで文字化けしないように、一部、実際に提出したものとは異なる文字をあてています)。

『プラトン的知性的諸形象』に見る形象論の諸相
――ファナーリーによる絶対存在の存在証明との関連をめぐって――

 シャムスッディーン・ファナーリー(1431年没)は,タフターザーニー(1389/90年没)に代表される存在一性論批判に対して,存在一性論側から反駁を加えたオスマン朝初期の学者である。タフターザーニーによれば,絶対無限定の存在(以下,絶対存在)とは,外界に実現をもたない普遍概念である。しかし存在一性論者はこれを神(al-haqq)と同定し,全宇宙をその自己顕現として把握する。そのためファナーリーは,神がそれ自体において必然的に存在する以上,絶対存在もまた存在者であるとしなければならなかった。こうした絶対存在の存在証明において彼が具体的に依拠していると見られるのが,本発表で焦点を当てた「プラトン的形象」(以下,形象)をめぐる議論である。とはいえ,形象に対するファナーリーの言及は,極めて断片的なものでしかない。本発表では,彼の議論のソースであった可能性が指摘されている『プラトン的知性的諸形象』(13世紀後半から15世紀初頭に成立)と呼ばれる著者不詳の論考を取り上げ,両者の議論の間に見られるテクスト上のパラレルを指摘することによって,ファナーリーが絶対存在の存在証明において「形象」に言及する論理を探った。
 手がかりとなるのは,次の2点。1) ファナーリーの採る形象論が『プラトン的知性的諸形象』第1章第2探求中で紹介されている学説1(=「数学的なものと自然学的なもののいずれにおいても形象は存在する」)のそれに対応するという点。2) 彼が絶対存在を「種」とする説に対して一定のシンパシーを抱いていたという点。これら2点に基づけば,彼の議論に現れる絶対存在と形象の関係は,学説1が想定する種と形象の関係へと還元されることになる。そして学説1の形象論によれば,種(=無条件的に捉えられた本質)は,実在レベルでは形象(=普遍者)と相等しいものとなる。ここから形象が外界に存在するとすれば,種である絶対存在もまた外界に,質料的個物どもから離れて存在し得るという結論が帰結する。これが絶対存在の存在証明において,ファナーリーが形象に言及する理由であると考えられる。以上が本発表で示した暫定的な結論である。

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