Shihadeh, A., ''From al-Ghazali to al-Razi: 6th / 12th Century Developments in Muslim Philosophical Theology'', Arabic Sciences and Philosophy, 15 (2005), pp. 141-79.
ずっと前からの宿題を一つ片付けました。何だか寄り道が多い論文だったような気がしますが、気のせいかもしれません。論文タイトルから察するに、ガザーリー(Abu Hamid al-Ghazali, 1111 年没)とラーズィー(Fakhr al-Din al-Razi, 1210 年没)の神学思想・哲学思想を比較検討するのかと思っていたのですが、実際に論じられているのはガザーリー派(Ghazalians)とラーズィーとの関係でした。
冒頭でガザーリーについて論じられ、次いでガザーリー派について、そして最後にガザーリー派(及び哲学者)とラーズィーとの関係について論じられるので、何だか冒頭部と後半部の関連が薄いようにも思えました。とはいえ、ガザーリーは神学(ここでは「形而上学」の意味ではなく、ムスリムの思弁神学を指す)の目的、そこで用いる方法論などに関して著作間で使い分けていて、そのうち当時広く読まれていたのはアリストテレス論理学の影響がそれほど強く出ていない著作(具体的には哲学批判書として有名な『哲学者たちの矛盾』Tahafut al-falasifah)だったようなので、ガザーリーに対する哲学の影響を強調する昨今のガザーリー研究の現状を考慮すると、ガザーリー派の議論を取り上げるだけで事足れりとはしにくかったのでしょう。
方法論の観点から見ると、ラーズィーは相手の議論を崩すことに終始する弁証術(jadal; 神学者がよく使う)を批判し、アリストテレス論理学に接近したそうです。しかしアリストテレス論理学一辺倒だったわけでもなく、神学者たちが古くから用いてきた「探究と分割」(al-sabr wa-al-taqsim; 確かあらゆる可能性を全て列挙し、一つ一つ吟味を加えて、消していく、というやり方を指す)をアリストテレス論理学的に展開したのだ、とのこと。
しかし方法論においてこのような変化はあったにせよ、神学書Nihayat al-'uqul 執筆当時のラーズィーの目指すところは先行する神学者たちのそれと同じものだった、とShihadeh は言います。つまり理性によって宗教的信条に基礎を与え、それと対立する見解を論駁する、というものです。けれど、ラーズィーの著述の目的はその後、こうした護教的なものから離れ、自らの思索で形而上学的な知識にたどり着く、という哲学的なものになっていくと言います。Al-Mabahith al-mashriqiyah などの哲学書はこの時期に書かれたものだそうです。
しかしラーズィーは再び神学に戻ってきます。哲学的探究を経て、再び神学へと戻ってくることにより、ラーズィーは哲学的神学を完成させるのだとか。こうした流れの中で、彼の主要著作は以下の順で執筆されたのだそうです:
Nihayat al-'uqul→[以降、哲学的探究期]Al-Mabahith al-mashriqiyah(自然学と形而上学から成る;実験的、引き写し多し)→Mulakhkhas(論理学が加わる)→Sharh al-Isharat(イブン=スィーナー哲学批判)→[以降、神学リヴァイヴァル期;ここにおいてラーズィーの手により哲学的神学が生み出されることになる]Muhassal afkar al-mutaqaddimin wa-al-muta'akhkhirin→Al-Matalib al-'aliyah min al-'ilm al-ilahi(未完の大作、ラーズィーの哲学的神学のクライマックス)
ではラーズィーが最終的にたどり着いた哲学的神学はどういった内容のものだったのか。これについては、この論文で取り上げられている部分からだけで判断するのはよくないと思いますが、Shihadeh が重要な点として論じているのは、それまでの「宗教的信条に理論的支えを与える」という方向から「寧ろ啓示そのものが確信へと至る第一の道なのだ」という方向への転換です。そしてその中でラーズィーはイブン=スィーナーの「知的完成」論を批判するのだとか。ここから以下の二つの点が重要な問題として見えてくるのだそう:
1. 神を知ることに対して直接的に向けられていない諸学(イブン=スィーナーが人間の知的完成にとって不可欠であると考えた諸学)の地位の低下。世界やその部分について知ることは人間の完成の本質的側面を構成せず、確固たる信仰へと至る道は唯一つ、「体験」することである、という考え。
2. 以前批判していたスーフィズムへの傾斜。
えぇ~!?
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